LIBEAトップページの背景に隠された想い
LIBEAのトップページを開くと、薄いオレンジの線で結ばれた粒々が、ゆっくり形を変えながら揺れ続けているのに気づいた人がいるかもしれません。あれは装飾用に適当に動かしているわけではなく、私が個人的に触っている「意見動学(opinion dynamics)」のシミュレーションのロジックを、そのままサイトの背景に移植したものです。せっかくなので、中身と、そこに込めた設計の話を書いておこうと思います。
人間関係のモデル化としてのネットワーク
大局的な人間関係はしばしばネットワークとしてモデル化されることがあります。ネットワークの点(ノード)を個人として、それらをつなぐ線(エッジ)を友人関係、知人関係として捉えるものです。こうしたネットワークは特にSocial Networkと呼ばれ、古くから研究の対象となっており、実際に私が研究の対象としているものの一つでもあります。このネットワークによるモデル化によって社会の人間関係の色々が定量的に捉えられておもしろいんです。
例えば、"6人の友人関係を辿ればアメリカ大統領に繋がる"という話を聞いたことがあるかもしれませんが、これも本質的にはSocial Network理論におけるスモールワールド性という人間関係ネットワークの性質を面白く例示したものです。 他にも、実社会の人間関係をネットワークとして表現してみると、コミュニティが表出してくることが多いというのがあります。一部の集団が密に関係を持っていて、ネットワークとして図示したときに一つの塊として見える状態です。これは現実世界でいうところの、仲の良い友達グループであったり、同じ部署の仲間たちであったり、あるいは親戚の集まりなのかもしれません。こうした社会ネットワークの性質をクラスタ性と呼んだりもします。あとで説明しますが、トップページを開いた瞬間に展開されるネットワークは3つのコミュニティに分けています。
特に興味深いのが、このコミュニティを行き来するような場所に位置する人間で、彼らはBridge nodeやBrokerage nodeと呼ばれコミュニティを橋渡しするような存在です。ある古典的研究によれば、こうした橋渡しノードの存在が、コミュニティ間での情報伝達を活性化させて、革新的な創造性へと結実するという組織論みたいな話もあります。転職なんかのときには、近い友達よりも、案外こうした橋渡し人間が役に立っている、とか。こうした話はまだまだ序の口で、もっと面白い話がたくさんあるのですが、とりあえずSocial Networkというのは人間関係をモデル化したもので、人間が集まったものであれば、色々なことに適応できる優れものだということです。人間関係以外にも例えば、タンパク質の構造や、ニューロンの構造なんかにもネットワークは登場します。オブジェクトとその関係性さえあればモデル化できてしまうから便利なんですね。
300個のノードは、それぞれ「意見」と「繋がりやすさ」を持っている
LIBEAウェブサイトのランディングページの背景に浮かんでいる点は300個です。前節で述べたように、これは300人の人間関係を模したものとして構築しました。 実は、各ノードには -1〜1 の連続値で「opinion(意見)」という属性をネットワーク構造とは独立に一様分布で持たせています。 この意見というのは、ある話題に対する賛成・反対の態度の強さを表したものくらいに思っていただければ。どっちでもいいでしょう、みたいな意見が0付近の人もいれば、いや絶対に反対だ、みたいな意見が-1に近い人もいます。 この意見を政治的な話題に限定して考察する研究も多いですが、何も政治の文脈に限らず、今度の週末の予定とか、会社の方針とか色々あると思います。1次元のベクトルでは表現しきれなかったり、一様分布じゃなかったりとかはあるんでしょうが、、
さらに、ノードごとに「他者との繋がりやすさ」の傾向も振ってあります。その繋がりやすさに応じて確率的に人間関係が構築されるように計算しています。 この繋がりやすさは、べき分布に近い重い裾を持たせているので、結果的にごく一部のノードだけが極端に多くの友人関係を持つハブになり、大半は控えめな数の繋がりしか持ちません。 現実世界にもたまに「繋がりやすさ」のパラメータが相対的に高い人はいますよね、誰とでも話してるなぁ、みたいな。もちろんみんながみんなそうではなく、むしろ大半は内向きのご近所付き合いみたいな感じでしょう、、偏見でしょうか、、 Social Networkの分野では、このような次数の非対称性を"スケールフリー性"と呼んだりします。面白いのは、これがスモールワールド性やクラスタ性と同じく人間関係に限った話ではなく、タンパク質相互作用ネットワークのような生化学的なネットワークにも同様に観察される、かなり普遍的な性質だということです。 画面上では、ノードの半径はこの友人関係の数(次数)の平方根に比例させているので、より顔の広いノードはサイズも大きくなっています。 正確には、この次数分布の冪乗指数が2~3くらいがスケールフリーの定義だが、昨今のSNSネットワークはより裾が重く、これはもはやスケールフリーではなく云々、、、という話もありますが、ここでは割愛します。
最初から「仲良しグループ」ができている
ネットワークの初期構造は、DCBMというアルゴリズムに従って生成しています。 実は、この3つのコミュニティは意見とは無関係に、300人をランダムかつ均等に振り分けただけの集団です。たまたま配属された部署くらいのイメージでしょうか、あるいは学校での班分けとか。 同じコミュニティ同士は、異なるコミュニティ間より15倍繋がりやすく設定していて、平均次数(平均友人数)はノード1つあたり4本です。これによって、何も操作していない初期状態から既に緩いクラスタ(コミュニティ)が視覚的に見えるようになっていますが、この時点ではクラスタの中身は意見的にはバラバラです。
余談ですが、ネットワーク構造を構築するアルゴリズムは本当にたくさんの種類があります。ランダムネットワークとか二部グラフとかを聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。 実は、最初は Holme–Kim モデル(優先的選択と三角形形成でスケールフリー性とクラスタリングを同時に作れる成長モデル)と呼ばれるアルゴリズムを使っていました。その後、コミュニティの境目をもっと明示的にコントロールしたくなって、何度か生成方法を変えて、最終的にDCBMに落ち着きました。なんというか、ぼーっと見ていると人間関係っぽくてリアルな感じがしています。
Homophily
この背景の最大の特徴は、時間経過で起きる繋ぎ替え(rewire)です。 適当に配属されただけで納得して終わってしまうほど人間は単純ではないでしょう。自分たちの意見に従って人間関係を”繋ぎ変えて”再構築していただきます。 ここから約7.35秒ごとに6本のエッジを選んで繋ぎ替えていますが、その繋ぎ替え先はランダムな相手ではありません。以下の繋ぎ変えルールに従います。
- 自分から「2ホップ先」——今の友達の、そのまた友達——の中からだけ繋ぎ替え先の候補を作る
- 候補の中でも、opinionが近いノードほど exp(-2.5 × |意見の差|) の重みで選ばれやすくする
要は、知り合いのツテで自分と似たような意見を持っている人を紹介してもらう、みたいな感じです。 一般的な(Watts-Strogatzのスモールワールド)モデルは、繋ぎ替え先を完全にランダムに選んだりします。それに対してこの実装は、ネットワーク構造的に近い(2ホップ以内の)相手からしか選ばない上に、意見が近いほど優先されるという、社会学でいうところのHomophily(同類性)という性質を組み込んだ繋ぎ替えです。 このHomophilyという概念は、例えばあなたのSNSのレコメンド機能にも使われています。似たようなやつは似たような嗜好だろうという話で、これが結構その通りだという、、、
Rewiringを設計せよ!?
このrewiringが、実はかなりおもしろい。先ほど述べたように、ネットワークの中から特に制約を設けずに完全にランダムにrewireさせると、いわゆるスモールワールドな世界が構築できて全体として密なネットワークができるかもしれませんが、現実世界でそんなことは中々難しい。制約があるところこそが、社会のおもしろいところとさえ思えてきます。 かといって、意見という興味関心の近さに依存したrewireだけでは、同じ意見の集団で固まってしまいます(ちなみに、これはいわゆるエコーチェンバーとか意見分極とか言われる話で、現代のSNS環境でよく観察される現象です。大統領選のときのTwitterとか。)。今回はそこに2ホップ制約という友達の友達からのみなる物理的制約を足してみましたが、何もこれがベストというわけではありません。いくら友達の友達という制約を設けたところで、時間が収束するにつれて、意見集団で固まっていってしまうことには変わりありません。 ただ、コミュニティ内の結束が強くありながらも、既存の繋がりを介して異なる意見のクラスタとも細い糸で繋がり続けるという動学(ダイナミクス)が個人的にはかなり良いのではないかと思っています。
「観光客の哲学」という本でも、近い話が出てきます。若干ネットワーク理論としての捉え方は違うかもしれませんが、強い絆で結ばれた既存コミュニティはなくす必要がなく、そのコミュニティの間を偶然的につなぐ「観光客」的な存在——「誤配」——によって、異なるコミュニティ同士もゆるく繋がっていられる、という話です。 今般の話に引きつけて考えれば、個人の意見や専門性を無理に均質化して一つのグループにまとめるのではなく、それぞれの意見クラスタは自然に近い者同士で強く結びついたままでいい。ただ、2ホップ先という緩い経路をたどった偶然の繋ぎ替えが観光客のような役割を果たしていて、それがある限り既存の関係を辿れば異なる意見にもちゃんと手が届く。 文化という閉鎖的な部分を大事にしつつ、そういう開放性を持った人間ネットワークっていいですよね。トップページの背景は、その状態を眺めのシミュレーションとして常時再生している、というイメージでしょうか。
まとめ
というわけで、トップページのネットワーク背景は、300個のノードが持つ「意見」という1つの属性と、ランダムな初期クラスタへの配属、友達の友達へのHomophilyベース繋ぎ替えで緩やかに組み替わり続けるシミュレーションです。ランダムでも、完全に固定でもない、この中途半端な状態が維持されるダイナミズムが、ちょうど良いと思っている距離感に近い気がしています。
出典
- 東浩紀『観光客の哲学 増補版』(ゲンロン, 2023) — 作品ページ
- Milgram, S. (1967). "The Small World Problem." Psychology Today, 1(1), 61–67.(いわゆる"六次の隔たり"の初出)
- Watts, D. J., & Strogatz, S. H. (1998). "Collective dynamics of 'small-world' networks." Nature, 393, 440–442. — doi.org/10.1038/30918
- Holme, P., & Kim, B. J. (2002). "Growing scale-free networks with tunable clustering." Physical Review E, 65, 026107. — arXiv:cond-mat/0110452
- Karrer, B., & Newman, M. E. J. (2011). "Stochastic blockmodels and community structure in networks." Physical Review E, 83, 016107. — arXiv:1008.3926
- McPherson, M., Smith-Lovin, L., & Cook, J. M. (2001). "Birds of a Feather: Homophily in Social Networks." Annual Review of Sociology, 27, 415–444. — Annual Reviews
- Burt, R. S. (2004). "Structural Holes and Good Ideas." American Journal of Sociology, 110(2), 349–399. — doi.org/10.1086/421787
